ただ好きだから



顔良し、スタイル良し、仕事良し、気づかいよし。完全なるハイスペックとはこのことか。



「今日は会社に戻らないの?」



意外にもスンナリと出てくるタメ口は、咲夜にお願いされたとうり昨日の今日とは思えないほど慣れたものだ。それはきっとこの見た目とは違い咲夜の俺様な所を知ったからなのかもしれない。



「戻らない、今日の分の仕事は終わった」


「そっか」



だけど会話はまだイマイチぎこちなくて…でもそれも無理はないか。いくら会社の社員と社長っと言っても、それはまるで関わる事の無かった初対面のようなものなんだから。



「それにお前と食事をとる約束だしな。言っただろ、俺の婚約者になるからには大事にするって」



意地悪気な表情で私を見下ろす咲夜は、片側の口角を上げて色っぽく笑って見せると缶を手に取りビールを口にした。



「な、何それ。偽の婚約者を大事にするなんて物好きなんですね」



ドキドキとうるさく鳴り出す心臓を沈めるかのようにサラダの野菜をパクパクと口に運ぶ。



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