ただ好きだから
それに比べて私は…咲夜の隣に立っても恥ずかしくない程度の身なりになっているんだろうか…
ソファーで何やらノートパソコンをいじっていた咲夜が立ち上がり、リビングの入り口に立っていた私を見つめると、頭の先から爪先までジッと見つめてきて…
うっすらと細められた切れ長な瞳。意地悪気に上る口角は私を真っ直ぐに捉える。
「可愛いじゃん」
「…どうも」
思わず恥ずかしさで、やけにそんな可愛くない言葉が口から漏れ出たかと思うと、彼はフッと小さく楽しそうに笑って私の横を通り過ぎて行く。
「行くぞ」
「うん」
マンションの地下一階には地下駐車場があって、咲夜の後ろからそこへと初めて足を踏み入れる。
「乗れ」と、そう言われて立ち止まったのはブラックのやたらと高級そうな車の前。うん、やっぱりこれも彼に良く似合っている。
一瞬だけ、後部座席に座るのか…それとも助手席に座るのか迷ったけれど。二人しかいないのに後部座席をチョイスするのは流石に可笑しいような気がして助手席のドアを開けた。