ただ好きだから



やけに心地の良い重低のエンジン音を合図に車が走り出す。


初めての咲夜との少し近い距離と、この密室空間に右肩半分が緊張してるような気がして…それを紛らわすみたいに声をかけた。


「行き先は決まってるの?」


「あぁ一応、でもお前が行きたい店があるならそこに行く」


「行きたい店か」


「好きなブランドあるか?付けてみたい指輪とか」


「特には無い」


「なら俺が選んだ所でいいか」


「うん」


好きなブランドか…そういうの普通のOLならあるのかな。でもあいにく私は好きなブランドも好きな店も特にない。


服や靴は好きだけど、そもそもブランドも定番の物は分かるけどあんまり詳しい方でもないと思う。


だけれど15分ほどで着いたそこは、ブランド物に疎い私でも知ってるほどの有名ブランドで思わずその高級感からお店の中へ入るのを躊躇してしまいそうになるほど。


「どうした?行くぞ」


車を駐車場に止め、店の出入り口で一度足を止めた私に咲夜は不思議そうにするけど、慌てて彼の後ろをついて行く私を見て店内へと入っていく。


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