ただ好きだから

店内に入ると、中はシックで落ち着いた色で統一されていて。


いくつも置かれているガラスのショーケースの中には眩いばかりのアクセサリー達が並べられ、キラキラと輝いている。


それと同時に、店内にいた人達の視線が一気に私達へと向けられた。


いや…正確には私達にじゃない。咲夜にだ。


だけど、彼はそんな事を気にするどころか余裕気で。一番手前にいた女性店員さんへ声をかけた。


「婚約指輪を探してるんですか」


異様なほど注目を集める中、そのせいでやけにシンっとした空間に咲夜の声だけが良く響く。


「あの、聞いてます?」


声をかけられた店員さんは、一瞬見入っていた咲夜への視線が声をかけられた事によってハッとしたのか我に帰ったように慌てた声を出す。


「あ、はい!かしこまりました。婚約指輪ですね」


少し裏返ったようなその声は、どこと無く緊張からか震えていて…それを見ている私にまで緊張が移りそうなほど。


「凛津」


その光景を咲夜の少し後ろから見ていると、不意に咲夜にそう名前を呼ばれ思わずドキっと鳴った胸の音。

いつも呼び方はお前とかばかりなのに、さすがに不意打ちで名前呼ばれたらビックリするじゃん。


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