ただ好きだから
店員さんは咲夜の言われた通り私の見つめていた指輪を取り出すと、ソレを綺麗に磨き上げてから私へと手渡した。
「付けてみろ」
咲夜がジッと見ているせいでここまできて付けるわけにもいかず、それをそっと左薬指へとはめる。
ピッタリとフィットしたそのリングは、小さいにもかかわらず眩いばかりの輝きを放っている。
「綺麗…」
思わずそうポツリと口からこぼれ出た声
それを聞き逃さなかった咲夜がさかさず目を細めて微笑むと
「これをお願いします」
「え!?」
「何だよ、他に気になるのあるのか?」
「いや、違うよ。これはすっごく素敵だけど…」
これ一体いくらなのよ。他のよりサイズは小さいけど、あきらかに輝き具合が他の物よりもキラキラしてる。
「ならこれにしよう」
咲夜の言葉に店員さんは「かしこまりました」と言うと私から受け取った指輪を小さな箱にしまう。
「こちらは限定品でして、日本に数点しか来てない物なんですよ」
いや、今更ソレを言わないで!値段考えただけで恐ろしい。一番安い物を選ぶつもりで来たのに…何で限定品なんか選んじゃってるの私!
結局、お会計の際には婚約指輪だからか私からは値段が見えないよう店員さんがそっと咲夜に金額の書かれた伝票を渡していて、私は値段を知る事さえ出来なかった。
きっと恐ろしい金額に違いないはずなのに、咲夜は顔色一つ変えるどころか、店員さんに何かを言われ優し気に微笑んでいる。
会社ではいつもクールなのに、店員さんが美人だからってニコニコしてるんだろうか。私にはいつも意地悪な事しか言わないのに。
少しだけモヤっとした気持ちになりながらも、戻ってきた咲夜の姿を見てそれはすぐに消えた。