Bitter
「舞…。」

寂しいなんて感情、絶対表には出さない。


その時、慎太郎さんはあたしの頭を大きい手で触った。

この手が大好き。

だけど指輪がついていると大好きな手も嫌いになる。

(指輪がついた手であたしに触れないでよ…。)

なんて心では思ってても、口が裂けても言えない。

そして


そんな気持ちを持ってるあたしにお構いも無しに


この人は何事もなくあたしにキスをする。


「またね。…楓とは必ず離婚するから。」


(嘘つき…。指輪つけている時点で別れる気なんてないくせに…。)

人間って本当、嘘がうまい。


そして慎太郎さんは帰って行った。

この


紛れもなく眩しく晴れる太陽のように


さっさとあたしの前から去る。



優しいキスなんていらない。



いっそぼろぼろにあたしを使ってくれる方がまだマシだ。


そしたら、嫌いになれるのに。


あの人はどこまでもズルい。


そんなあの人を利用して楽な関係でいるあたしは奥さんにとってはもっとズルい。

でもそれを望んだのはあたし自身だ。











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