【先生×生徒シリーズ】優しい月 暗い海─私と先生─
act.5
「先生…辛かったね。苦しかったね。でも、もう苦しまなくていいんだよ。我慢しなくていいんだよ。自分を責めないで…ねぇ先生」
私は先生から離れると、窓のところまで行き窓枠に手をかけて、外を眺める。
空には月が出ていた。
夜空を照らす月。
ほの暗い部屋の中を月明かりが包んでいた。
「怖かったんだ…」
先生が私の背中越しに語りかけるように静かに話し始めた。
私は振り向き先生を見る。
俯いている先生。
「あいつを…雪乃(ゆきの)を失った後に、人を愛することが怖かったんだ…」
「先生…私の名前知ってる?」
窓に寄りかかりながら先生に言った。
先生はゆっくり顔を上げる。
相変わらず先生の目からは涙が溢れていた。
宝石のような綺麗な涙。
そこにはもう『冷酷』『冷血』な先生はいなかった。
「クラゲ…」
「違う!海の月と書いて『みづき』だよ」
笑う先生。
先生の笑顔を生で始めて見た。
美しい笑顔。