限定なひと
「……口に、合わない?」
「え?」
 彼は私から徐に視線を外した。ちょっとがっかりしているようにも見える。
「なんか、微妙な、曖昧な顔、してるから」
「ああ、違うっ、ちがいます! 美味しいです。というか、むしろ好み、かな」
「ほんとにっ!?」
 とたんに彼の顔が破顔する。やだなに、この子。これじゃまるで、猫じゃなくてわんこじゃないの。私の頬が一気に加熱した。
「わ、私、なんか、お腹すいたな」
 彼は、私の言葉が合図とばかりにダッシュボードへと手を伸ばす。
「焼き鳥、久しぶりだから、楽しみかも」
 眼鏡の向こうの瞳がますます笑うから、こっちまでつられて笑顔になる。
 カチカチとウィンカーの音が、鳴り出して、私は慌てて、シートベルトに、手を、伸ばし、て……。
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