限定なひと

「あ、あの」
「はい?」
 そこは見慣れない部屋の一角を占める、大きなベッドの上。
「なんで」
「はい」
 上半身を起こした私は、自分の素肌を隠すために可能な限り毛布を胸元へと手繰り寄せた。
「こんなことになってるの?」
「……」
 黒縁の眼鏡越しのジト目がこっちを見た。
「……だって昨日、カウンターで寝だしたから」
「それなら、普通は起きるまで起こすでしょ?」
 彼の眉間に盛大な皺が寄る。
「もちろん、起こしましたよ。結構、激しく声もかけたし、揺さぶったし。それでも、全然起きなくて、……だから」
 私は出かかる言葉を飲み込むしかない。
「別に俺は、背負って貴女の部屋まで行ってもかまわなかったんですけど、それはそれで、問題があるでしょ?」
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