限定なひと
 我が社の女子社員寮は、寮と言っても名ばかりで、実質はごくごく普通のアパートを一棟丸ごと会社が借り上げているだけの事。だから、入り口に管理人がいるとか、そういう面倒なことはない、けど。
「総務のお局が朝帰りでどうのこうのって掃除の時にうるさかったヤツも、新婚の野郎が夜中に 女子寮に来たとか何とか言ってたヤツも、みんな女子社員寮住みのばっかりだよ?」
「はい、そうです。……すみません」
 実は結構、他人を見る目が多いのだ。まるでお互いをけん制し合うように。気を遣わせてしまってごめんなさい、と私は恐縮して、ますます縮こまる。
「いや、だから俺は別にいいですよ。全然困らないし」
「それは、そうよね。女子寮に住んでるわけじゃないもんね」
 いやいや、そっちじゃないでしょ、と黒縁眼鏡の奥の目が困ったように笑う。昨日の艶っぽい 意地悪な笑みも似合うけど、こういうプレーンな表情にも釘付けになる。
 歳甲斐もなく、と我に返った途端、頬が熱くなった。
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