限定なひと


 彼、清住偉人(きよすみいくと)は、この春からうちの会社、スーパー・ダイヤスの商品課に配属になった新人くん。
 身長180センチの長身で、誰もが知ってる超有名私大卒のエリートさん。少しクセのある色素の薄い茶髪とくっきり二重の目元が相まって、その風貌は何となく猫を連想させた。その他の顔のパーツたちも品よく配置されていて、彼はいわゆるイケメンと呼ばれるカテゴリーの人だ。正直、愛想は全然良くないけれどだからと言って不快な感じもさせないのは、その辺に起因しているのかもしれない。
 もちろん見た目だけではなくて、仕事覚えも早く何事もそつなくこなす。『天は二物を与えず』なんてよくいうけれど、彼に限っては三物も四物も与えられているようで、稀にこういう人もいるのかと、下から彼を見上げつつ、ちびな私はそう思った。
 そんな彼が、どうしてこんなローカルな中小企業に就職したのか、社内一情報通の由美さんでさえ『そこだけがさ、謎なんだよねー』と口を尖らしている。
 我が社はブラック、ではない(……たぶん)。だけど、ちょっと体質が古めではある。残業(それも比較的サービス)もざらだし、ほぼ毎週少しでも時間があれば『飲みにケーション』と称して社員同士の意思疎通を図る。女子社員はみんな『女の子』と呼ばれ、掃除やお茶くみ等々の細々した雑事は全部女の子の仕事だ。
 こんな社風に彼は、大胆にも入社早々で一石を投じた。
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