限定なひと
「あー、やっぱりそうなんだ」
「あ、いや、だから、それは」
 まぁまぁまぁまぁ、としたり顔で彼女が私に顔を近づけると、声を潜めた。
「大丈夫。まだ、相手が清住君だとは割れてないから」
 どういうことだろう。
「むしろ、言ってた本人たちの方が戦々恐々だからねー」
 意味がわからない。
「アナタたちの事を見かけたのは、商品の田辺バイヤーと総務の釘崎敦子女子」
「えっ?」
 田辺バイヤーは三十代前半の結婚二年目。もうすぐ赤ちゃんが産まれるはず。対する釘崎さんは、目下婚活に余念のないアラフォーのお局様。でも、その二人がまた、なんで?
「……まぁ、二人の関係は、ご想像に任せるとして」
 いや、そんなの任せられても。
「ねぇ、もしかして車に乗る前か後だったんじゃない? アナタたち」
「は?」
 間抜け声で返す私を見て、彼女はまたしてもご満悦そうだ。
「人事課に運転免許証のファイルがあるんだけどさぁ。彼の免許の条件等の欄にね、眼鏡等って書いてあってだねぇ。要するに運転する時だけ限定眼鏡クンなのよ、彼」
 うふふふふ、と楽し気に笑う彼女を私はまじまじと見る。
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