限定なひと
彼が朝一で件の製菓会社に打合せで出かけて間もなく、言い出しっぺが誰かは定かじゃないけども、有志を募って祝杯を挙げると社内は妙な盛り上がりを見せていた。珍しく定例飲み会の無い週だっただけに、ああ、やっぱりなと思わず苦笑してしまう。もちろん私は欠席と告げて、当初の予定通り週明け一番の会議の下準備に取り掛かった。
どれくらい経ったのか、ふと気づけばフロアにいるのは自分一人だけになっていた。作業の方もあらかた目途が立ったから、私はさっさと会社を後にした。
金曜の浮かれた街中の空気から遠ざかっていくバスに揺られながら、都心の灯りに視線が留まる。あの中のどこかに彼がいるのかな、とふいに思った自分に少し驚いて、慌てて景色から視線をずらした。全くどうかしてる、とカリカリしながらバスから降りたとたん。
「思ったより早かったじゃないですか」
言葉を失ったまま見上げる私を、彼はすごい間抜け面だとけらけら笑った。
「さ、行きますよ。今日の店は販促の鈴原主任イチオシですから、期待してて」
そう嘯く彼に訳が分からないまま、私は腕を引かれた。
「あのっ、ちょっと待って! だって、今、飲み会でしょ?」
「そういや、そんなメール、入ってましたっけね」
つらっと彼はそういうと、いたずらな笑みを浮かべた。
「だ、だって、主役が居ない飲み会なんてっ」
「あの人達は、単に理由をつけて飲みたいだけですよ」
そんなことよりも、と彼は立ち止まると私をまじまじと見た。
「間島さんはもちろん、祝ってくれますよね?」
はい? と首をかしげると、くくっと喉の奥で彼が笑う。
どれくらい経ったのか、ふと気づけばフロアにいるのは自分一人だけになっていた。作業の方もあらかた目途が立ったから、私はさっさと会社を後にした。
金曜の浮かれた街中の空気から遠ざかっていくバスに揺られながら、都心の灯りに視線が留まる。あの中のどこかに彼がいるのかな、とふいに思った自分に少し驚いて、慌てて景色から視線をずらした。全くどうかしてる、とカリカリしながらバスから降りたとたん。
「思ったより早かったじゃないですか」
言葉を失ったまま見上げる私を、彼はすごい間抜け面だとけらけら笑った。
「さ、行きますよ。今日の店は販促の鈴原主任イチオシですから、期待してて」
そう嘯く彼に訳が分からないまま、私は腕を引かれた。
「あのっ、ちょっと待って! だって、今、飲み会でしょ?」
「そういや、そんなメール、入ってましたっけね」
つらっと彼はそういうと、いたずらな笑みを浮かべた。
「だ、だって、主役が居ない飲み会なんてっ」
「あの人達は、単に理由をつけて飲みたいだけですよ」
そんなことよりも、と彼は立ち止まると私をまじまじと見た。
「間島さんはもちろん、祝ってくれますよね?」
はい? と首をかしげると、くくっと喉の奥で彼が笑う。