限定なひと
瞬間、彼の姿が窓から消える。それと同時に反対側からガチャリと音がした。私はその音に、許可を得たんだと理解して、慌てて反対側へと回り込む。
「お邪魔します」
おずおずと車に乗り込むと、彼は笑いを含んだ声で言う。
「へんなとこ、律儀ですよね。間島さんって」
それはお互い様だと思う。
「その言葉、そっくり清住くんにお返しします」
「は? なんで」
思いきり困惑する彼の顔が、ちょっと子供っぽくて。
「いや、違う。律儀じゃないわね。この場合は物好き、かな」
「え?」
前にもこんな繊細な困り顔を見たような気がして、心が妙にざわついた。
「こんな、四捨五入して三十のおばさん捕まえて、遊んでるヒマがあるなら、もっと素敵な若い子と遊ばなきゃ」
「俺は一応、それなりに真剣ですけど?」
彼がいつもの余裕な意地悪顔に戻ったから、思わずほっとしてる自分がいた。
「それなりって」
「ああ、すいません。言い方、間違えました。至って真剣です」
彼は、本当にひどい。
「あのね、清住くん。冗談はもっとこう、冗談らしく言わないとトラブルの元だよ」
「トラブルって、例えばどんな?」
勘違いさせるような言葉を平気でいっぱい吐いて。
「トラブルは……、だから、なに? ほら、あの、色々とね」
「俺、間島さんとなら、トラブってもいいですよ」
そして、それに振り回される私を見て、確実に面白がっている。
「その分、逢える時間が確実に増えるから」
彼の言葉に飲み込まれそうな自分の不甲斐なさを、また騙されるつもりなのかと、叱責したその時。カチカチと音がして、滑る様に車が駐車場から動き出す。
こうしてまた、彼との『限定の時間』が始まった。
「お邪魔します」
おずおずと車に乗り込むと、彼は笑いを含んだ声で言う。
「へんなとこ、律儀ですよね。間島さんって」
それはお互い様だと思う。
「その言葉、そっくり清住くんにお返しします」
「は? なんで」
思いきり困惑する彼の顔が、ちょっと子供っぽくて。
「いや、違う。律儀じゃないわね。この場合は物好き、かな」
「え?」
前にもこんな繊細な困り顔を見たような気がして、心が妙にざわついた。
「こんな、四捨五入して三十のおばさん捕まえて、遊んでるヒマがあるなら、もっと素敵な若い子と遊ばなきゃ」
「俺は一応、それなりに真剣ですけど?」
彼がいつもの余裕な意地悪顔に戻ったから、思わずほっとしてる自分がいた。
「それなりって」
「ああ、すいません。言い方、間違えました。至って真剣です」
彼は、本当にひどい。
「あのね、清住くん。冗談はもっとこう、冗談らしく言わないとトラブルの元だよ」
「トラブルって、例えばどんな?」
勘違いさせるような言葉を平気でいっぱい吐いて。
「トラブルは……、だから、なに? ほら、あの、色々とね」
「俺、間島さんとなら、トラブってもいいですよ」
そして、それに振り回される私を見て、確実に面白がっている。
「その分、逢える時間が確実に増えるから」
彼の言葉に飲み込まれそうな自分の不甲斐なさを、また騙されるつもりなのかと、叱責したその時。カチカチと音がして、滑る様に車が駐車場から動き出す。
こうしてまた、彼との『限定の時間』が始まった。