限定なひと
「清住さん、よかったら私、書き直しておきますよっ」
すぐ近くの席に座って、ずっとこちらを伺っていた子が堪らず名乗りを上げると、つられるように他の席の子たちも色めきだつ。巻き込まれる前に逃げよう、そう思った瞬間。
「いや、いいですよ、別に。これくらい自分で書けるんで」
仏頂面のまま私からペンを奪い取ると、彼は私の書きかけに続いて、更に私以上に汚い字でガツガツと書きなぐる。ペン先が潰れないかとハラハラしてしまうほどに。そうですか、と少ししょんぼりして席に座る彼女を、なんだか少しだけ申し訳なく思ってしまう。対して他の子たちは、心なしか胸をなで下ろしたように感じた。一歩間違えば自分があの立場だったのを回避できたからなのか、それとも、彼の彼女に対するそっけない態度に安堵したからなのか、良くは分からないけれど。
「っていうかさ。なんでこんなことも、自分でできないのかな」
少し大きめに響く独り言は、明らかに周囲を意識している。
「面倒な事は女の子にやらせておけ、とかさ。ホワイトボードに自分で行先書くのも女の子の仕事って、どんだけ面倒くさがりなんだよ」
案の定、すぐ近くの総務部長が僅かに視線を書面から上げた。
「お茶だ何だって、一々女子社員使ってさ。なんか、使わなきゃ損、みたいに」
「ちょ、ちょい。清住くん、それは流石に言い過ぎだよっ」
私が声を潜めてそう言うと、彼の眉間に盛大な皺がよる。それでなくとも不機嫌そうな顔がますます不愉快に歪む。
すぐ近くの席に座って、ずっとこちらを伺っていた子が堪らず名乗りを上げると、つられるように他の席の子たちも色めきだつ。巻き込まれる前に逃げよう、そう思った瞬間。
「いや、いいですよ、別に。これくらい自分で書けるんで」
仏頂面のまま私からペンを奪い取ると、彼は私の書きかけに続いて、更に私以上に汚い字でガツガツと書きなぐる。ペン先が潰れないかとハラハラしてしまうほどに。そうですか、と少ししょんぼりして席に座る彼女を、なんだか少しだけ申し訳なく思ってしまう。対して他の子たちは、心なしか胸をなで下ろしたように感じた。一歩間違えば自分があの立場だったのを回避できたからなのか、それとも、彼の彼女に対するそっけない態度に安堵したからなのか、良くは分からないけれど。
「っていうかさ。なんでこんなことも、自分でできないのかな」
少し大きめに響く独り言は、明らかに周囲を意識している。
「面倒な事は女の子にやらせておけ、とかさ。ホワイトボードに自分で行先書くのも女の子の仕事って、どんだけ面倒くさがりなんだよ」
案の定、すぐ近くの総務部長が僅かに視線を書面から上げた。
「お茶だ何だって、一々女子社員使ってさ。なんか、使わなきゃ損、みたいに」
「ちょ、ちょい。清住くん、それは流石に言い過ぎだよっ」
私が声を潜めてそう言うと、彼の眉間に盛大な皺がよる。それでなくとも不機嫌そうな顔がますます不愉快に歪む。