限定なひと
「でも、文句も言わず黙認してるんですよね?」
「ちがいますっ! 文句言いたくても言えないんですっ!」
 彼がまたしても瞠目する。でも、すぐに小馬鹿にしたようにくすりと嗤った。
「でも、いくら不満をつのらせたって、声に出さなきゃ意味ないですよね。……ああ、そうか。言わなくても分かれよそれくらい、ってヤツですか」
 温厚で控え目、要は地味と言われる私でさえ、流石にこれにはカチンときた。
「あのね、清住君。私たち女の子が言ったところで、そんなの聞いてくれるわけがないの。それどころか、下手したらクビになるかもしれない」
 彼が鼻を鳴らして嗤う。
「まずは、その前に。その『女の子』はやめませんか。自分で言ってて恥ずかしくない?」
 はっとした。周りが当たり前に使っていたから、自分も無意識にそう言っていたけど、確かに 彼の指摘の通り27歳で『女の子』、さすがにこれは思考停止と言われても仕方ない。
「社長や会長みたいなご年配ならまだしも、部長、課長から俺と対して歳の変わらない先輩方までそう言ってるの聞いたときは、さすがに引きましたけどねぇ」
 そう嘯くと口元だけを歪ませて彼が嗤った。
 なるほど。イケメンは意地悪く嗤うとむしろ色っぽくなるんだ……、なんていけない、いけない。うっかり見惚れてしまったじゃないの。
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