限定なひと
 動きたくない身体に鞭うって、私はのろのろと布団から這い出す。
 ふと、鏡に映った自分の姿に目が止まる。無駄にレースがあしらわれた白の上下のお揃い、いわゆる勝負下着と呼ばれる類のもの。でも、その白はうす汚い私には白すぎて全然似合ってない。そのちぐはぐぶりに思わず嗤ってしまう。
 いつもなら今頃は、清住偉人にこれを着せられていたかもしれない。嫌がる私に嬉々として着せている間に彼の中で火がつくのか、再び始まってしまう事もままあった。
 彼はそっち方面で壊れているのかもしれない。
 そう考えて、ふ、とまた笑いが込みあげる。そうじゃなくて、彼は私よりも5つも若い。大学出たての22歳。心も身体も自信に満ち溢れていて、そのくせ飢えてもいる貪欲な年頃。
 私の場合はそれが少し早すぎて、22の頃といえば既に人生に疲れていたし、こんなものかと全てを投げ出し諦めてもいたけれど、普通なら彼のように人生を楽しめていたのかもしれない。
 改めて考えると、私と彼とは全てが違いすぎてなんだか笑えてくる。で、それに気づきもせず、お情けで抱いてもらっていたのに調子に乗った挙句の果てが、これ。
 でも、ちょうど良かったのかもしれない。今が潮時ということなんだろう。
 ただ、一つ気になるのが『チル』のこと。
 どうして彼があの呼び名を知っていたのか。私の背中を嫌な汗が流れる。
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