限定なひと
それでも結局一年後、私は彼の門下へと下る。
書道はこれで最後のつもり、と書いた作品が、思いもかけず大きな賞を取ったのは、高校合格の通知が届いたのとほぼ同じくして。入学式を終え、あわただしさが落ち着いたゴールデンウィーク明けに行われた授賞式で、またしても彼と遭ってしまった。
今度は彼が授与者、私が受賞者として。
私に賞状を差し出す彼は、薄くて形の良い唇の端を機嫌よさげに上げ、その細身によく映えるチャコールグレーのスーツを身に着けていた。流石に奇抜な印象を与える、あの黒縁眼鏡は掛けていなかったけれど。
対する私は、まだ真新しさが抜けきれていないセーラー服にみっともないほどダブダブの濃紺のカーディガン。それと、少しだけ冒険した膝上丈の二十四本車ひだのスカート。けれども、会場に到着して早々、私は自分の失敗に気づく。やはり母親の言う通り、いつもの丈のスカートの方がこの場には相応しかったようだ。
それだけで心が凹んでいたところを、更に一番会いたくなかった人物に出くわしたのだ。しかも、逃げ場のない壇上で。悪事が見つかった子どものようにおどおどと手を伸べるしか術はなく、頭の中には、どうやってこの場から逃げようかと、それしか思い浮かばなかった。
書道はこれで最後のつもり、と書いた作品が、思いもかけず大きな賞を取ったのは、高校合格の通知が届いたのとほぼ同じくして。入学式を終え、あわただしさが落ち着いたゴールデンウィーク明けに行われた授賞式で、またしても彼と遭ってしまった。
今度は彼が授与者、私が受賞者として。
私に賞状を差し出す彼は、薄くて形の良い唇の端を機嫌よさげに上げ、その細身によく映えるチャコールグレーのスーツを身に着けていた。流石に奇抜な印象を与える、あの黒縁眼鏡は掛けていなかったけれど。
対する私は、まだ真新しさが抜けきれていないセーラー服にみっともないほどダブダブの濃紺のカーディガン。それと、少しだけ冒険した膝上丈の二十四本車ひだのスカート。けれども、会場に到着して早々、私は自分の失敗に気づく。やはり母親の言う通り、いつもの丈のスカートの方がこの場には相応しかったようだ。
それだけで心が凹んでいたところを、更に一番会いたくなかった人物に出くわしたのだ。しかも、逃げ場のない壇上で。悪事が見つかった子どものようにおどおどと手を伸べるしか術はなく、頭の中には、どうやってこの場から逃げようかと、それしか思い浮かばなかった。