限定なひと
 授賞式が終わった後の簡単なレセプションでは、先生の娘と孫にも会った。先生の孫と会うのは初めてだったけど、噂に違わず綺麗で聡明そうな人だった。
 娘よりも私と似ているの、とよく先生から聞いていたけれど確かに雰囲気が似ている。
 大学院二年目で漢文学の研究をしているというその人は、おっとりとした笑顔でこう言った。
「ミネタカの所に通うんですってね。彼の事、よろしく」
 でもその目は笑っていない。そういうところも先生にそっくりだと思った。
「まだ、決めたわけじゃないので」
 私の答えに、そうなの、と返事した彼女の顔は能面を張り付けたようだった。
 
 その帰り道。
 待ち伏せていた彼からなぜか逃げる気にもなれなくて、私は流されるまま、彼の教室に通う事になった。
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