限定なひと
 しばらくして、彼に促されるままに準師範を取ってからは、土日を中心に初心者の幼児、小学校の低学年の子の指導が雑務より増えてきた。小さな子の拙いそれは、正直見ていてハラハラするけれど微笑ましくもあって、精一杯大人ぶって醒めたポーズを取る高校生にすら頬を緩ませるほどの威力を持っていた。その反面、満面の笑みで師範である彼に添削をねだる彼らの姿に、内 心ヤキモキする自分に気づいて、あからさまに動揺もした。
 先生の真似事が板についてきた頃、私の周りで、やたらと進学、就職という言葉が聞こえてきた。
 私は漠然とではあったけど、このままここで彼と一緒に居られたらいいのに、と思い始めていた。
< 53 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop