限定なひと
 それからほどなくして、彼の書が国内で一番大きな大会の賞を取った。
 彼は瞬く間に有名になり、メディアでも何かと取り上げられた。元々ルックスは悪くない。年齢の割に着物も上手に着流すし、しかもその頃には既に『眼鏡男子』というカテゴリーが当たり前にあった。
 教室は問い合わせでごった返したが、彼は現状維持を頑なに守り、入り弟子も変わらず私一人のまま。
 でも、一つ大きく変わったことがある。
 彼の家にもう一人、住人が増えていた。
 その住人の綺麗な面に浮かべた笑みはやはり能面の様にも見えて、でも、その下には般若の形相を隠している事も私は知っている。
 押しかけてきちゃったんだよねぇ、と。少しだけ困った顔でそう言う彼に、私は秘かに失望した
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