限定なひと
* * *
「で、次は何処で曲がればいいんですか」
面倒そうな彼の声で、私は我に返る。慌てて車窓の景色に視線をやれば、明らかに曲がるタイミングを逃していた。
「あ、あのっ、……曲がる道、過ぎちゃってる」
彼がちらと横目で私を見た。レンズの向こうのその目元には、あからさまなとげがあって、私は居たたまれない気持ちになる。
「何のためにそこ、座らせてると思ってるんですか」
吐き捨てられた言葉に、私はますます小さくなった。不意にカチカチと音がすると、車は吸い寄せられるように道の路肩に止まった。
「あの……」
おずおずと彼に問いかけるも、眼鏡の向こうのその視線は手元のスマホにのみ注がれていて、私の方へ向く事はなかった。