限定なひと
「と、とにかく。自分でもよく解ってるんです。友人にも学生時代の先輩からも馬鹿かって突っ込まれたり呆れられてます。……でも、もうここまで来たら、引き下がれないっていうか、その」
 不貞腐れたように口を尖らす彼が、ちょっとかわいく感じた。
「あの」
 彼の躰がビクリと跳ね上がった。
「一つ、聞いても、いい?」
 さっきから疑問に感じていた、肝心なこと。
「どうやって、今まで私の事、調べてたの?」
 彼はますます困ったように視線を泳がす。ねぇ、と更に問うと、意を決したように彼の視線が真っすぐ私を射抜いた。
「あのおばさん、……狭山涼子からです」
 久々に聞いたその名に、胸の内が僅かにチクリとした。
「彼女、今。狭山峯隆のマネジメントとか一切合財を仕切ってるらしくて、結構頻繁に狭山の個展とかコラボ企画とか、俺の実家に主催やらないかって売り込みにくるんですけど」
 確かにそんな大きな伝手があるなら、利用しそうな気がする。
「その度にお袋、つい聞いちゃうみたいで。そう言えばあの可愛らしいお弟子さんはどうしてるのか……、って」
「私の事、知ってるの? 清住君のお母さんって」
 うん、と頷くと、挿絵の猫みたいにニヤリと嗤う。
「毎週水曜の五時からが、うちのお袋の稽古時間ね」
「あ……」
 ふいに、素敵な笑顔の清楚な和服美人が頭に浮かんだ。
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