限定なひと

 それは今から半日ほど前のこと。
「間島君。悪いけど、今やってるこれ。また例のお客さんまで届けてくれないかなぁ」
お調子者でいい加減な課長が、にやにやと半笑いで自分のノートパソコンを指さした。
「え、……あ、はぃ」
「池垣製菓ってさ、女子社員寮の通り道でしょ? 帰宅途中にちょちょーっと寄って、ほいっと置いてきてくれるだけでいいからさ」
 課長がこんな風に私にお願いする時は、大抵、在庫や返品のごたごたを抱え込んでいる時。直接お客さんと顔を合わせたくない気持ちは、分からなくもない。でも、だからといって、アシスタント業務にそれを押し付けるのは上司として以前に、人としてどうなんだろう。
 部長も部長で、この件に関しては(いや、この事以外でも、だけど)何度相談しても話半分の態度。おまけにすぐ軽い下ネタのセクハラ話に持っていかれて、結局なぁなぁで終わってしまう。
 どうして男の人ってこうなんだろう。面倒くさい事は全部自分以外に押しやって、平気で知らん顔。
「忙しくなければ、俺もこんな無茶ぶりはしないんだけどさぁ~」
 そのくせ自分の事ばかりで、人の気持ちなんてこれっぽっちも考えてなくて、ほんとにうんざりする。
「悪いけどさ、もう少ししたらバトンタッチするんで、書類の作成の続きもお願いね~」
 やっぱり、私の人生に男なんていらない。
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