限定なひと

「偉人さん、本当にごめんなさいね。この子のために手をわずらわせちゃって」
 彼女の母親はそういうと、部屋の入り口でちょっと困ったような微笑みを浮かべている。さっきは冷たい麦茶とケーキだったが、今度は熱い緑茶と羊羹をお盆に載せていた。
 彼女曰く、お節介の押し売りと外面ばかりを気にする薄っぺらい人。
 まぁ、そういう人はどこにでもいるし、まして、彼女を産んだ親だと思えばどうとも思わない。それにぶっちゃければ、幼い頃からもっと強烈な野望欲望丸出しの大人に揉まれて来た俺からすると、まだまだこんなのかわいらしい部類だ。
 ともかく、この人の攻略法は大方つかめている。
 俺は徐に立ち上がる。
「すみません、お義母さん。お気遣い、ありがとうございます」
 愛想よく上から覗き込むようにそう言うと、お盆をそっと彼女の手から取り上げる。
 三姉妹の長女で子供も娘一人という彼女に、俺の長身は強烈に映るらしい。笑みの一つもつけてさりげなくお礼を言うと、忽ち浮かれるのが手に取る様に解るから、毎度見ていて微笑ましいほどだ。
「……母さん、いちいち私たちに構わないでくれるっ?」
 で、こっちを上手く攻略すると、今度はあっちの姫君が不機嫌になるという法則。
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