限定なひと

 数日前。引っ越し先の新居での事だ。
「美智留さんの荷物って、もしかして、これだけ?」
 彼女が引越し業者と共に持ってきたのは、大きい段ボールが五つだけ。あまりの荷物の少なさに、ちょっと驚いた。女性の部屋って、何となく華やかで、ごちゃごちゃしてるイメージがあったからだ。
「うん、そう。これだけだけど?」
「なんで?」
 思わず問えば、彼女はごくごく自然に答えてくれる。
「だって、ほとんどが買え替えでしょ? だから、古い物はリサイクルショップで売ってしまったし、元々そんなに荷物もなくて。というか、女子寮には長居する気は無かったの。とにかく実家から出たくて、入寮は、その言い訳替わりだったから」
 言葉の端々に、彼女と家族との距離感が浮き出る。
「大きな荷物はね、新しい所に移ってからって考えていて、でも、結局は仕事が忙しくて、引っ越す暇もなかったほどだったし」
 彼女の苦笑にこっちもつられて笑う。
「じゃあ。もう実家から持ってくる荷物っていうのは、無いの?」
「……うん、別にいらない物ばかりだし」
 何故か言いよどむ彼女に、つい、穿った目を向けてしまう。
「ふーん」
「なに?」
「いいや、べつに」
「なによ?」
 ちょっとだけ、声のトーンが上がってる。
「例えばさ、書の御道具とかは?」
 なんか気まずそうな顔に、ちょっとだけそそられる。
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