限定なひと
「……それも、また新しく買い換えるからいい」
「どうして? あるやつ使えばいいじゃん」
「……偉人は、それでいいんだ」
 今度は声のトーンが下がった。ちょっと、まずったか。
「なんで?」
「実家の御道具は、全部、師範の息のかかったものばかりなんですけどっ」
 師範? 師範ってことは、だ。
「ああああ、それはだめっ! 絶対却下っ!」
 咄嗟に大声を上げて、俺は全身全霊で拒絶していた。そうだ、そうだよ。うっかりしてた。あいつが関わってるものなんて、絶対触らせたくない。慌てる俺を横目に、少し勝ち誇ったような美智留さんの顔が、ちょっと小憎ら可愛い。
「じゃあさ、あのっ、卒アルっ、とかは?」
「……あぁ、そういうのね。確かに、その辺も実家に置きっぱなしだわ」
 どこだったかな、と独り言ちる彼女の横顔につい見入る。今の『普通の彼女』が貴重に感じるほど、あの頃の彼女『チルさん』は無感情に見えたからだ。
「よし、決まり。じゃあ、早速だけど来週末とか、どう?」
「それはダメでしょ。だって、大物の家具類が届く日よ?」
 眉間に皺を寄せる彼女も可愛い。とにかく、彼女の表情、声、唇の動き。どれ一つだって見逃したくない。
「でもさ、午後っていうか、ほとんど夕方だろ? 午前は午前で式場の打ち合わせが入ってるし、昼はランチ兼ねて幹事と二次会の打ち合わせだしさ」
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