サヨナラから始まる恋
「……はっ?」

龍樹くんがそっと口を開いた。

何回、は? と言われればいいのだろう。


怪訝な表情をする私と、怒ったような、悲しそうな、なんとも言えない表情の龍樹くん。



今ここで誰か会議室に入ってきたらなんと思うだろうか……。

鍵、閉めているけど。

間違っても恋人同士だとは思われない気がする。

もう、違うから、あっているわけだけど。


「あの。いい? 戻っても。出社してすぐにこんなに席外すの、どうかと思うんだけど……」


ここに連れてこられたのは九時五分。

始業開始直後である。

左腕につけた腕時計を見ると、九時三十二分という時間よりも、龍樹くんがくれた腕時計だと思い出して胸がどきりと跳ねた。

早く帰りたがる私を尻目に龍樹くんは、

「もう、いやだ……」

と、悲しそうに、小さく呟いた。
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