むらさき
1 今日のはじまり
「ユウスケっ」
呼ばれてはっと目をあける。
目の前には相変わらずうっとうしい前髪。
それから海。
青い、青い。
ぼくらだけを迎えてくれる海。
そう深くない沖合には「チンボツセン」が半分だけ顔を覗かせている。
空は快晴で、急に目をひらいたからまぶしくってちかちかとした。
あとそれから、海とぼくのあいだにぼくに向かいあって立っている男の子がひとり。
その背格好はどっからどう見たってタケシだ。
逆光で顔は見えないけど、なんだか笑っているみたいだ。
光に目が慣れてくると、タケシが右手にスプレー缶を持っているのが見えた。
「ぼうっとしてっからそんなんなるんだぜ」
タケシはキッキッキと声を出して笑う。