むらさき
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ぼくがここへ来たのは、だいたい二ヶ月ぐらい前になるのかな。
「海の子通知」。
通称「青紙《アオガミ》」。
それがぼくの家に届いたのが、今年の四月の初め。
◆
『今年度の【海の子】に次の者を認定する。
セダ ユウスケ 殿
貴殿は厳正なる検査の結果、
今期の【海の子】となる資格を獲得いたしました。
それにあたり、一年間の学業休業と共に、
マラタ海浜にて、新たな【技術】漁りを行なうことを命ずる。
ニホン国首相 アサダ ヒロフミ』
◆
「青紙」が届いて、お父さんとお母さんは大喜びして、ぼくに新しい服を五着も買ってくれた。
それから、海の子としてゼッタイ必要なもの──
海水用パンツと海中ゴーグルも。
海の子は海から新しい技術を探すのが仕事。
いろんな国で、それぞれルールは違うところもあるみたいだけど、ニホンでは毎年十二人。
全国一斉に行なわれる事前の身体検査で、一等海に適応できる小学校六年になる子どもから選ばれる。
なんだかよくわからないけど、第二次性徴?それが始まるころが一番、海の子としての質がいいんだって。
海の水って本当は体に毒だからね。
だって、これだけ技術を生み出す場所なんだもん。
普通の大人の人とか、もっと小さい子どもが海の水に触ったら、病気になる。
だから、本当にぼくらだけの海。
ここ、マラタ海浜合宿所にいる同い年の十二人だけが、この島国ニホンで海に入ることが許されているんだ。