飛恋(とびこい)
タイトル未編集
・黒崎 ミキ

「やったね!」
「受かってる!」
親友の坂本マリと同じ感動から2ヶ月。
谷高校の入学式。
今日からここの1年生。
私がここを選んだのには理由があって、
ここは陸上部が有名な学校だった。
私は小学生のころから運動神経がよくどんなスポーツも並以上はできていた。
そんなんかで私の心をつかんだのは中学の時に出会ったハードルだった。
空を飛ぶようなあの感覚が好き。
風を切り、地面を蹴って飛ぶハードルが大好き。
「ねぇねぇ、あの人じゃない?」
入学式中に話しかけてくるマリ。
マリの指す指の先には1人の先輩らしき人がいた。
「え?」
「もう!前に言ったじゃん!この学校、いやこの辺の地区の有名人。工藤キョウ先輩!」
「あ、あぁ。」
覚えているような、覚えていないような…。
あ、思い出した。
顔よし、運動神経よし、頭よし、おまけに性格もいいってことで女子たちの注目の的。
噂ではたくさんの大学から声がかかってるとか…。
それもそのはず、1年生のころから先輩を差し置いて全国大会に出場し入賞まで果たしている短距離の選手だ。
比の打ち所のない完璧な王子様的存在。
「やっぱ、かっこいいねー。」
「あれ、マリってあんなのタイプだったっけ?」
「タイプではないけどカッコイイじゃない!」
そんな話をしながら見つめていると、
「あっ。」
目が合ってしまった。
すると、彼はニコッと小さく笑った。
「え!知り合いじゃないよね!?完全にミキの方見て笑ってたよ!?」
「え!知らないよ!」
知らないはずだけどな…。

「もー、話長すぎ!倒れるかと思った。」
「確かにね」
私は少し笑って言った。
「それにしてもさ、先輩のあの行動…。あれが普通なのかな?」
あの行動とは微笑んだことだろう。
「そうなんじゃないかな?あんなに人気だし。女の子に見つめられるのも慣れてるんじゃない?」
「確かに。」
我ながら自分も納得出来る意見だと思った。
「そんなことよりさ!マリは部活どうするの?また、バレー部?」
「うん!ミキは?陸上だよね!」
「当たり前!何の為にここに来たことか!」
私の目的はハードルだけ。
「やっぱりね!」
私達はお互いの部活を確認し、新任であろう瀬古ナオキ先生の話を聞いた。
「初めまして。このクラスの担任とバスケ部の顧問になりました瀬古ナオキです。ちなみに俺もみんなと一緒で今年からここに来ました。よろしく。」
その先生はいかにもバスケ部!って感じの背が高くて痩せ型の先生であの先輩に負けないぐらい顔立ちの整った人だった。
「なんか聞きたいことあるかー?」
「はーい!先生彼女はー?」
明らかに真面目ではない女の子が聞く。
「来ると思ったぞ、その質問!先生なぁ、片想い中なんだよ…。」
頭をぽりぽりと掻きながら言う。
「なにそれー!先生可愛いー!」
女子がきゃーきゃー騒ぐ。
「ねぇねぇ、何よあれ。ファンサービス?」
マリが小声で前の席の私に言う。
「さ、さぁ?」
瀬古、ナオキ…。
どこかで聞いたことのあるような…。
誰だろう。
私は胸の中にモヤモヤしたものを抱えながら挨拶を聞いていた。

「やっと帰れる!!ミキ!帰ろ!」
「あ、ごめん、マリ。私ちょっと陸上部見てきていい?あれだったら、先に帰っててもいいから。」
今日から早速部活動を見て回る許可が出たので人目見ておきたい。
「ほんとに好きだねー、んー、わかった。じゃあ、先に帰るね?」
「うん、ごめんね。気をつけてね。」
「また明日ね!」
そう言って手をヒラヒラさせながら校門へと歩いていった。
「さてと、私も行こうかな。」
少しだけ緊張しながら陸上部のグラウンドへ向かう。

「わぁ。」
そこには中学の時と全く違う空気が流れた空間があった。誰一人サボってる人はいない。
「キャーーーー!!」
この歓声を除いては。
その声の主は新一年生と思われる女の子達とこれまた華やかな先輩達。
その歓声の矛先はやっぱりあの先輩だった。
ピッ!
スタートの笛の音と共に走り出す先輩。
「キャー!キョウせんぱーい!!」
キョウ、あの先輩の名前かな。
先輩の走る姿はまるで鷹が獲物を狙う時のように速かった。
「は、速い…。」
思わず声に出てしまった。
1本走るとまたスタートへ戻る。
その途中私の前を通った先輩は
「あ。君!入学式の!」
「へえ?」
いきなり話しかけられた私は間抜けな声を出してしまう。
「見てたでしょ、俺の事。」
「見てたのは私だけじゃないと思います。」
私は歓声の声の主たちを見た。
「そうだけど。君、陸上興味あるでしょ。」
「え!?」
なんでわかったんだろう。
「なんでだろうって、思ったでしょ!俺ね、そういうの分かるの。」
「そうなんですか。」
2度も見透かされて動揺する。
でも、それを悟られないように口数を少なくする。
「部活おいでよ!なんなら今からやってく!?」
「いや!着替え持ってないです!」
いきなりの提案に不可能なことを伝える。
「俺の貸すから!待ってて!」
「あ!ちょっと!」
先輩は私の声が聞こえてないようだ。部室であろう場所に走って行った。
ど、どうしよう。
無視して帰ろうか、でも、そうするとこの後が辛い。
ふと周りを見渡すと歓声をあげていた女の子達がコソコソと何かを言いながらこちらを見ていた。
や、やばい…。さっそく嫌われた?
そんなことを考えてると先輩が戻ってきた。
「よかった、帰ったかと思った!」
すごく帰りたかったです。
「あ、いや、一応…。」
「それじゃあ、はい!俺のウェアだから大きいかもしれないけどウエストは絞れば大丈夫だと思う!女子更衣室こっち!」
そう言って先輩は私の腕を掴み、走った。
さっきの走りとは違って、私に合わせてくれているような気がした。
「はい!ここね!着替えたらさっきの場所まで来てね!」
「あの!先輩!」
「あー!そうだ!種目なに?…ハードル?」
「は、はい。」
また、見透かされた。
「場所開けてもらうから着替えたらこの部屋の外で待ってて!」
「まって!」
バタン。
先輩は質問の返事以外は聞かない耳を持っているようだ。
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