飛恋(とびこい)
「ミキー!帰ろー!」
「うん!」
お昼に学校が終わり、この学校の近くを探検しようという話になった。
「おい、俺忘れんなよー!」
「はー?あんたも一緒に帰るのー?」
この感じ、中学の時と全然変わらない。
マリとソウが冗談を言って私が笑う。
そしたらみんな笑う。
「みてー!こんな所に駄菓子屋さんあるよ!」
「ほんとだ!可愛いね!」
学校の近くで見つけた小さな駄菓子屋さんはおばあちゃんが1人でやっている昔ながらのお店だった。
「ミキ、お前迷子になったらここ来いよ。」
ソウが笑いながら言う。
「迷子になんかならないし!」
すかさずツッコミを入れる。
「怪しいけどねー。」
マリもにやにやしながら言った。
「もう!」
そんな話をしていると、
「あ!あんたさっきキョウ先輩と何話してたのよ。」
すごい勢いで女子の大群が近づいてきた。
「え、え?」
あまりに急な出来事で頭が回らない。
「さっき学校の部活動見学で肩抱かれてたじゃない!」
あ。あの時のことか。
私は頭の中で前後にゆらされた事を思い出す。
「あれは、先輩が…」
急に。と言おうとした私の話を遮った女子グループのリーダー格。
「言い訳のつもり?先輩のせいにするなんてひどい!キョウ先輩はみんなの物なのよ。独り占めしてんじゃないわよ!」
ドンッ!
その音と共に尻もちもつく。
痛ッ。
突き飛ばされた私のお尻はジンジンと痛む。
「おい。お前らなにしてんだよ。」
その声はマリ…ではなかった。
「…ソウ。」
上を見上げるとそこには彼女らと私の間に立ったソウの背中があった。
「何よ!あんたには…!」
リーダーの女の子は言葉を飲み込んだ。その理由は、
「ちょっと、こんなイケメンうちにいた?」
突き飛ばしたリーダーに側にいた女の子が耳打ちをする。
耳打ちとは言っても下から見上げている私にも聞こえる程の声だった。
「何コソコソ話してんだよ。ミキに謝れよ。」
いつもより低いその声は怒りを露わにしていた。
「ミキ、立てる?」
そう言ってマリが手を伸ばしてくれた。
私はその手を取り制服をはたいた。
「どうして、私達がっ…!もういいわ。覚えときなさいよ」
彼女らは足早に去っていった。
「ソウ、ありがとう。」
「おう、大丈夫だったか?」
「うん、大したことないよ。」
私はソウに笑顔を向ける。
「何よー。あんた達良い感じってこと?」
「ちがうよ!」「ちげーよ!」
「ふふっ、冗談よ!ばかねー」
マリのこの一言で場の空気が軽くなったのは言うまでもない。
「あ。」
帰りの電車の中、3人並んで座席に座っているとマリが何かに気づいて声に出す。
「ん?どうしたの?」
「あれ。みて。」
マリが指をさしたその先には電車のドアにだるそうにもたれ掛かるキョウ先輩の姿が。
「何か学校と雰囲気違うね。」
「確かにそうかも。」
学校の先輩とは違って落ち着いている雰囲気だった。
「ん…。」
その声と同時に右肩に重みを感じる。
視線を移すと右隣に座っていたソウが肩にもたれ眠っていた。
「寝てるし。」