臆病な背中で恋をした ~2
 それは真下社長とエレベーターで偶然会ったあの日から、一週間ほど経った頃のことだった。

「ちょっと聞いたっ?!」

 コンビニから戻った初野さんが、休憩室で先にお弁当を広げたわたしの隣りにレジ袋を置き、勢いよく座るなり興奮しながらまくし立てた。

「さっきコンビニで会ったマーケの子が言ってたんだけどさ! 統括部長が話してるの聞いたんだってっ。日下室長、戻って来るらしいよっっ? やだ、どーしよ、うれしーっっ」

 日下室長・・・って。うそ。亮ちゃんが帰って来る・・・? 

 大喜びしている彼女の言葉に呼吸を忘れて、意識が一瞬真っ白になった。
 麻痺した思考回路が今度は一気に加速、そして弾ける。

「それって本当ですか・・・っ?! いつですかっ?!」

 矢継ぎ早に。声も大きく出てしまっていて、周囲からの視線を浴びているのも分かっていた。でもそれどころじゃなかった。
 切羽詰まったようなわたしの様子に、初野さんも目を丸くして唖然としている。
 
「え・・・びっくりしたぁ。手塚さんてそんなにファンだった?、室長の」

「あ・・・えぇと」

 我に返り、記憶と情報を懸命に繋ぎ合わせて組み立てる。ぎこちない笑顔を貼り付けて必死の思いで取り繕った。
 
「その津田さんが・・・室長とは創立の時から一緒だって言ってたので。・・・教えてあげようかと思って」

「あー、そういうコト!」 

 人が悪そうににやけて、初野さんがわたしの肘を肘で小突いた。

「けっこうラブラブねぇ? ほんと意外よー、あのターミネーターと手塚さんが、まさか付き合うなんてさー」

 どうにか津田さんの名前に釣られてくれた彼女に、一番重要なことを気持ちを抑えこんで尋ねる。

「・・・あのそれで、室長はいつ戻るんですか?」
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