臆病な背中で恋をした ~2
 ようやく落ち着いてきて指で涙を拭い、濃色の三つ揃いの胸元からおずおずと顔を上げた。
 切れ長で、少し冷めた風にも見える目許。すっと通った鼻筋、薄めの唇。大人になって男らしさの増した整った顔が、変わらずにわたしをじっと見つめていた。
 
「・・・・・・ずっと俺を待っていたのか」

 問いかけに小さく頷き返す。

「・・・自分に出来ることってそれしかないから・・・」

 昔から面倒を見てもらうばっかりで。亮ちゃんの役に立つとか、支えになんてなれっこない。
 何の力も持っていないわたしがなれるもの。なりたいもの。
 亮ちゃんが帰る場所になることぐらいだから。
 忘れないように伝えなくちゃ。

「亮ちゃん。・・・お帰りなさい」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔で精一杯、ほほ笑んでみせた。
 刹那。息が止まるかと思ったぐらい、きつく抱き竦められ。閉じ込められた腕の中で、亮ちゃんへの想いが今までよりもっとずっと、大きな膨らみになっていく。

 亮ちゃんが好き。大好き。このまま離さないで欲しい。離れたくない。そばにいたいの、何があっても。・・・どうなっても。

 強く、つよく願った。 
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