臆病な背中で恋をした ~2
 亮ちゃんが静かに離れて。周りを見渡しながら、わたしは躊躇いがちに訊ねる。

「・・・亮ちゃん、引っ越したの・・・?」

 先週に来たときは何も変わっていなかった。今はカーテンも全て外され、リビングからもキッチンからも一切の物が消えたがらんどうの空き箱で。壁の白さが余計に寒々しく感じる。
 急に魔法が解けたかのような。・・・何だか週末にここで過ごしてきた時間のぜんぶが、自分が見ていた夢だったのかとさえ思えてしまう。

 おもむろに口を開いて亮ちゃんが言った。

「ここは引き払う。・・・明里が来る必要ももう、ない」

 淡淡としていて柔らかくも硬くもない話し方。でもどこか。感情を消して聴こえた声の低い温度に、胸の奥が波立ってざわざわする。まるで再会した頃の亮ちゃんに逆戻りしたみたい。

 思った瞬間に。心の水面に波紋がいくつも広がっていく。

 この部屋で亮ちゃんがわたしを待っていたのは。何を云おうとして・・・?
 答えがカタチになる前に声になって弾けた。

「・・・亮ちゃん、わたしを連れてってっ・・・!」 
 
 何も見通せない眼差しがわたしを見下ろしてる。でも構わない。もう一度胸元にすがって懸命に。

「離れるのはイヤなの・・・。他には何も望まないから、せめて傍にいさせて欲しいの。おねがい・・・っ」 
  
 ここで諦めたら、亮ちゃんはまたわたしを置いていこうとする。必死の思いだった。
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