臆病な背中で恋をした ~2
「・・・明里」

 両肩に置かれた亮ちゃんの手が、胸元からゆっくりわたしを引き離した。うついたままで小さく厭厭をしてみせる。

「明里」

 二度目に呼んだ声は。息を詰めたように堪えて聴こえた。

「・・・俺のことは忘れろ」

「そんなこと・・・っ」

 できない!
 思わず顔を上げれば、亮ちゃんの眸と真っ直ぐにぶつかった。

「分かっているはずだ。・・・昔の俺とは違う、明里がいくら追ってきても、もう手を引いてやれない。・・・連れていくつもりはない」

「亮ちゃんっ」 
 
 顔を歪めたわたしに、亮ちゃんは表情を変えることはなかった。
 
 子供の頃。ヒナのように後をついて回るわたしを、じれったそうに追い返そうとしては。結局ほっとけない亮ちゃんが、知らん顔をすることなんて一度だってなかった。
   
 いつだって優しい亮ちゃん。
 だから今度は置いていこうとする。
 
「亮ちゃんに迷惑かけたりしない。手を引いてもらわなくても、自分でちゃんとついていく。わたしだって子供じゃない、亮ちゃんがどう変わっても、ぜんぶ分かってて一緒にいたいの・・・っ」

 どうしても亮ちゃんに自分の気持ちを分かって欲しかった。亮ちゃんの気持ちも分かってた。
 矛盾してると思う。逆の立場だったら、わたしだって亮ちゃんを突き放す。愛してるから来て欲しくない。連れて行けない。亮ちゃんだけには幸せになって欲しいって。分かってる。だけど・・・!

「亮ちゃんとなら何があっても後悔しない。ここで亮ちゃんの手を離しちゃうほうが一生、後悔になるからっ」

 お父さんやナオ、ユカを悲しませることになっても。

「・・・他の人なんて愛せない。亮ちゃんだけなの、わたしには・・・!」
  
 亮ちゃんを食い入るように見つめ。全霊を込めて想いの全てをぶつけた。
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