臆病な背中で恋をした ~2
「・・・小動物のクセにな」

「え?」

 低く返ったのを、顔を上げて津田さんを窺う。そこには億劫そうな表情でこっちを見ている顔があった。

「見かけよりはマシなことを言えた褒美に、真下さんには今の言葉をそのまま伝えといてやるよ。・・・あんたをどう使うかはあの人が決めることだ」

「・・・ありがとうございます」

 よかった。
 一瞬でそれまでの緊張が解けて。ほっとしたわたしは泣きそうに笑った。
 亮ちゃんが断ち切った糸の先を、見失わずに済むかもしれない。

「あんたさ」

「はい」

 目が合った津田さんが何かを言いかけて、黒のロングエプロンをしたウエイトレスがトレイを手にテーブルの脇に立った。

「お待たせしました。ランチコースのアンティパストになります」

 白い陶器に彩りよく盛り付けされた季節の前菜が、わたし達の前に置かれる。

「・・・取りあえず食えよ」

 気がそがれたように肩を竦めるとカトラリーに手を伸ばし、津田さんは目線でわたしを促した。

 地粉を使ったピザとパスタ、チキンのグリルと続いて、そこまででもお腹はちょっと苦しかった。にも関わらずデザートの盛り合わせに、シアワセな気分になっているわたしを見て。

「女の別腹ってどこにあんだよ」

 津田さんが意地悪そうに口の端で笑ったから。驚いて目を丸くする。

「・・・わらった・・・」

「あぁ?」

 凄まれて思いきり不機嫌そうに睨み返された。
 
 取り扱いの難しい人だなぁと思うけど、優しくないわけじゃない。亮ちゃんが信頼してる人だからきっと悪い人じゃない。少し胸の中がほころんだ。




「話がそれだけなら俺に付き合ってもらう」

 いつも通りお手洗いに立った間に会計を済まされ、お店の外で煙草を咥えて待ってくれていた津田さんは。手にしていたスマホを上着の内ポケットに仕舞い、わたしを見ずに言った。
 何となくわざとそうされた気がして。だけど、すっと背中を向け車へと歩き出した彼に確かめようもない。
 
 肩を揺らして歩く後ろ姿を追いかけながら、心許ない気持ちを逃がしたくて。雲に覆われた鈍色の空を仰いだ。
 
 


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