臆病な背中で恋をした ~2
「そう言えば今日、ひさびさに社長見たわ」

 ロッカールームを出て一階に下りるエレベーターを待ちながら、初野さんがお喋りを続ける。
 
「昼休みにコンビニ行って戻った時、ちょうどエレベーターで降りてきたのよね。相変わらずイケメンだわー、ウチの社長!」

 あたしはやっぱり日下室長だけどー、と無邪気に笑って。 
 

 真下社長とも、亮ちゃんがいなくなってから個人的に会ってはいない。もしかしたらわたしが亮ちゃんのことを問い詰めると思って、避けているのかも。・・・そんな気もする。

 もちろん答えてくれるなら訊きたい。
 亮ちゃんとはいつ逢えますか・・・って。

 どこにいてもいいの。何をしててもいい。
 逢いたいだけなの。
 邪魔もしない、亮ちゃんを困らせたりしないから・・・!


 亮ちゃんの気配を感じられたのも、あれきりで。それとなく訊ねても、津田さんは素っ気なかった。



 誰も・・・何も云ってくれない。


『こっち側には来るな』


 亮ちゃんの言葉が遠くから響いてくる。




 
 目の前に横たわる暗くて深い地面の裂け目。その向こうに亮ちゃんがいる。
 わたしは懸命に目を凝らして、亮ちゃんを探してる。
 声にならない声で亮ちゃんを呼び続ける。


 あきらめずに。


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