臆病な背中で恋をした ~2
それが分からない津田さんじゃ無いはずだった、それでも。意にも介していない様子で事務的に言い重ねる。

「捨てられるのを承知で、惚れた男の為にどう利用されても構わないって俺に泣きついた女を、退屈しのぎに可愛がるのも悪くない。・・・と思いましてね」

「・・・・・・!」

その言葉はただの悪意なのか。わたしには分からなかった。いつも不機嫌そうで好かれているとは思ってなかったけど、本気で人をペットやおもちゃ扱いする人には思えなかった。だから。 
 
息を呑んで津田さんの横顔に目を見開く。こっちに流された視線と一瞬ぶつかった。黙って見てろ。強い眼光(ひかり)が過ぎって、そう言われた気がした。

「口出しは無用に願いますよ、日下さん。・・・俺の所有物なんで」

「・・・津田さんっ」

思わず小さな叫び声が漏れた。
違うっ、わたしは亮ちゃんの・・・っっ。
喉元まで出かかって、ぐっと堪える。
それも違う。亮ちゃんはもう瑠衣子さんと・・・!
 
亮ちゃんを仰ぎ見た。凍り付くような眼差しで津田さんを睨み据えていた。わたしを捉えてそれをきつく歪め、苦しそうに逸らした。

言って欲しかった。
なにか。
すがるように見つめた。 

「行くぞ」

肩を引き寄せる津田さんの手に力が籠り、わたしを攫っていく。

「亮ちゃん・・・っ」

「明里・・・!」

不自由に振り返ろうとしながら、たまらずに名前を呼んでいた。低く押し殺した声が後ろから聴こえた。


でも追いかけて来ては・・・くれなかった。
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