臆病な背中で恋をした ~2
1-2
 ふと冬の匂いがする。11月に入って吹く風も冷たくなった。
 厚手のコートには早いし、薄すぎても冷えるし。首許を温かくしてみたり、あったか素材のインナーを着てみたり。工夫をしながら毎週末、昏くなる前に電車とバスを乗り継いで亮ちゃんのマンションに来る。

 真夏の酷暑と台風はちょっと死ぬ思いもしたけど、もしかしたら帰ってくるかも知れないって思ったら。どうしても出かけずにはいられなかった。
 車の免許を取っておけばっていつも思う。だけどナオもユカもそれだけは止めろって賛成してくれない。・・・そんなに運動オンチじゃないのにぃ。


 
 亮ちゃんの部屋に入って一週間分の空気の入れ替えをまず。水回りは、少し水を流しっぱなしにしておく。それから寝室のクローゼットを開けて。何か違ってることは無いかと覗き込む。
 スーツもネクタイもシャツも少しずつクリーニングに出して、全部いつでも着られるようにしてある。わたしがいない間に亮ちゃんが取りに来ても困らないように。

 見ても手付かずみたいだったから、ちょっとだけ心が萎んで寂しくなる。
 あの朝のあれはやっぱり、夢だったのかな・・・・・・。ううん、そんなことない。自問自答。
 
 陽も落ちて薄暗くなったリビングにカーテンを引き、わざと灯りが漏れるように遮光の方は閉め切らないで隙間を作る。
 エアコンで温かくなった空気にやっと気分も和らいで。買い置きしてあるドリップ式の珈琲でも飲もうかと、電気ポットのスイッチを入れたのだった。  

< 5 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop