臆病な背中で恋をした ~2
駐車場になっている地下までエレベーターで下り、連行されるようにブルーのステーションワゴンのところまで津田さんに引っ張られて来た。無言で助手席のドアを開け、少し乱暴にわたしを中に押し込むと、運転席側に回ってエンジンをかける。

「シートベルトしろよ」

感情の見えない声に従う以外なく、車は路面にタイヤが擦れる音を響かせながら発進した。

地上に出てすぐに左折をし、緩やかに加速していく。すっかり日暮れた薄闇の中、客室の窓灯りに煌々とそびえるホテル。あのどれかに亮ちゃんがまだ居る・・・・・・。
身を捩らせて目で追いかけ続けた。やがて視界から消えて無くなり、シートに躰を沈め直して、か細く息を逃す。

どうして、こんなことになったの・・・・・・。なんだかもう心が鉛みたいに重たい。それでも訊かないわけにはいかなかった。

「・・・・・・津田さんは、わたしをどうしたいんですか・・・?」

「・・・そうだな」

表情の無い横顔がフロントガラスに向いたまま。後に続く言葉を緊張の面持ちで待つ。

まるでわたしを『遊び道具』扱いするかのように亮ちゃんに言ったのを、信じたくはなかったし、そんな人じゃないって思う気持ちも強い。戸惑いとせめぎ合い。わたしの知ってる彼は・・・! 膝の上で握り締めている手に力が籠る。

少し間があって。津田さんがおもむろに口を開いた。

「メシ食わせて世話してやるのが飼い主の仕事だろ。あんたは傍にいるだけでいい」

「・・・え?」

思わず瞬きした。
想像もしていなかった答えが返ってきて、脳が上手に咀嚼できてない気がする。

「なに、アホ面してんだよ。相変わらず小動物の脳ミソは小せぇな」

呆れたみたいな、鬱陶しげな。一瞥をくれた口許はでも緩んで見えた。
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