臆病な背中で恋をした ~2
待ち合わせまでの微妙な時間をどう潰そうかと、おトイレを済ませたり化粧直しもしたり。特に用は無かったけど会社を出て近くのコンビニに入り、ぐるっと一回りしてみたり。 

約束の5分前に戻ると、津田さんの車がハザードを点滅させて停まっていた。

「すみません、お待たせしちゃいました・・・!」

少し慌てて乗り込む。

「・・・ああ、お疲れ」

どことなく気乗りしていないような空気感を感じて、じっと彼を見つめる。
「なに?」とぶっきらぼうに返ったのが、いつもと違う気もしたけど気のせい・・・?
バックミラーを確認する仕草で車を発進させた津田さんは、しばらく無言だった。

交差点の信号待ちで止まり。呼ばれて、外を向いていた顔を戻した瞬間。伸びてきた腕に頭の後ろを掴まえられて、ぐっと引き寄せられる。気が付いた時には、唇に押し当てられた感触と、わたしのじゃない吐息が重なって。驚いてるうちに離れていた。

「・・・餌代にもらっとく」

シートに体を戻した津田さんはこっちを流し見して、何も無かったようにアクセルを踏み込んだ。

本当にこの人はときどき突拍子もなくて、ちょっと困る。『餌代』がキス・・・とか、理由も訊けない。横顔を覗いて、戸惑いの溜め息を胸の中でそっと逃がした。


津田さんが何を考えていたかなんて。まるで想像も出来ないで。

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