臆病な背中で恋をした ~2
ファッションビルを幾つか回って、ハイネックと七分袖の部分が花柄のレースになっているミモレ丈の、黒のワンピースドレスを見つけた。
清楚な雰囲気で、ショールやジャケットを合わせれば着回し出来そうだったし、結婚式なんかにも着ていけそうだったから思い切ってそれに決める。

横長の大きなショップバッグを一つは肩から一つは片腕にかけ、腕時計を見れば5時ちょっと過ぎ。すっかり夜の街に変貌したにぎやかな雑踏を、荷物を気にしながら歩く。
これから電車に乗ることを考えたら両手もいっぱいいっぱい。夜ご飯は地元に着いてから、駅ビルに入っているお惣菜屋さんで何か買って帰ろう。そんなことを思いながら。

映画館やゲームセンター、パチンコ店も軒を連ねる繁華街を通り抜け、若い男の子のグループや、少しよれた格好の中年男性なんかとも多くすれ違う。
大学生くらいの男の子が4人、スマホを見ながら大声で笑い合い、こっちを見ないで歩いてきて、肩からぶら下がったバッグがぶつかりそうになった。

「っ、ごめんなさ」

謝りかけの瞬間。建物側に腕を引っ張られ寸前で避けられた。
自分に何が起きたのか一瞬、分からずに。ただ驚いて反射的に横を振り仰ぐ。

わたしの二の腕を掴み見下ろしていたのは。サングラスをかけた長身の男性。髪も下ろして、ライダースの革のジャンパーに細身のパンツを履いた、スーツの時とは空気の違う存在感。・・・でも見間違ったりはしない。

「・・・・・・亮、ちゃん・・・」


これは夢・・・?
瞬きすら忘れたように。わたしは言葉を失って見つめ返す・・・だけ。
< 65 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop