臆病な背中で恋をした ~2
「・・・明里」

静かな声におずおずと胸元から顔を上げた。
亮ちゃんの深い眼差しがわたしを見つめて。濡れたままの頬に指を滑らせ、やんわりと涙の跡を拭ってくれる。

「俺は社長についていくと決めた時から、お前がどこにいても幸せでいてくれればそれでいいと思ってきた」

そう言って亮ちゃんは目を細めた。

「あの頃は大人になって明里を迎えに行くのは自分だと信じて疑わなかった。・・・今の俺にその資格がないのを分かっていて、何も変わってない笑顔で俺を呼ぶお前を手放したくないと思ったんだ」

苦しそうに切なそうに。眸の奥を儚く揺らして。

「結局は俺の勝手で明里を傷付けるだけ傷付けた。・・・済まない本当に」

「そんなこと」

目を伏せて謝る亮ちゃんに精一杯、首を横に振った。誰が悪いなんてない。

「そんな風に思わないで・・・亮ちゃん」
 
わたしは胸がいっぱいになって、やっとそれだけを言えた。

「お前をこれ以上関わらせずに、俺を忘れさせるにはそうするべきだと、彼女に婚約者役を引き受けてもらった。・・・・・・明里にどんなに憎まれても、陽の当たる世界で普通に生きさせてやるのが、俺の最後の役目だと思ったからだ」

目を見張ったわたしを真っ直ぐに見据え、亮ちゃんは告白した。
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