臆病な背中で恋をした ~2
受け止めるだけで精一杯だったわたしをバスルームまで軽々と抱いて運び、亮ちゃんは髪から隅々まで丁寧に洗ってくれた。躰を拭くのも髪を乾かすのも全部やりたがって、亮ちゃんがいなくなったあの夜を思い出す。

「・・・髪、伸びたな」

洗面台の前で美容師さんがしてくれるみたいにドライヤーの熱を当てながら。

「似合ってる」

縦長の鏡に映る亮ちゃんの顔は穏やかで。目が合って胸の奥がキュンとなった。こんなに優しい表情はいつぶりだろう。

せめてわたしといる時は。あの頃のままでいて欲しい。生きるか死ぬかの世界を忘れて・・・今だけは。


これからはずっとそうであって欲しい。願いを込めた。
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