臆病な背中で恋をした ~2
最近はわたしと津田さんの関係がある程度浸透しちゃったみたいで、手を引かれていてもあんまり気にも留められていない。・・・っていうこの状況が良いのか悪いのか、ちょっとよく分からなくなってる。

人の合間を縫って会場の前の方まで来ると、空気感が違う人達の輪があった。離れたところからでも分かる社長の姿は、いつ見ても堂々としていて自信に満ち溢れている。

「社長。明けましておめでとうございます」

津田さんが変わらない口調で声を掛けると、野性味のあるイケメン顔が振り向いて先にわたしに目を細めた。慌てて挨拶とお辞儀をする。

「噂の彼女か? 親の挨拶も済んだって聞いたぞ」
 
社長は津田さんに向かって人が悪そうに口角を上げた。
なんかもう。全部が筒抜けになっていて、わたしの個人情報って保護されないのかなぁ? ちょっと泣きたい。

「折角だ。報告がてらこの後も付き合え津田」

「・・・小動物付きなんですがね」

「構わん」

「社長、・・・それは」

眼差しを少し険しくした亮ちゃんが間を割ったのを。 

「日下」

そのひと言だけで黙らせて、社長はわたしに視線を向けた。一瞬何かを過ぎらせた眼差しは、でもすぐにその気配を解いていた。

「・・・君も明日からまた、社の為に力を尽くしてくれ」

会社の代表としての仮面を付け換え、穏やかな笑みが覗く。亮ちゃん達が交わした暗号みたいな会話は無かったように。

別の社員が挨拶に近付いてきて、わたしと津田さんはその場を離れた。
小動物がどうとかって、津田さんが社長に言ったのは聴こえてた。後ろの方でまた二人で壁の花になり、躊躇いがちに意味を訊ねてみた。

「行きゃ分かる」

どこに、って説明する気は一切ないオーラが全開で、鬱陶しそうに返っただけ。

津田さんにしても真下社長にしても、前置きなく自分の勝手にされるから。ココロの準備が出来なくていつも大変なのに・・・・・・。

思い切り大きな溜め息を隠して。なにかは分からないけど、心構えだけはしておこうと悲壮な決意を固めたわたしだった。




< 87 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop