臆病な背中で恋をした ~2
「揃ったな」

布張りの大きな長ソファにわたしを横に置いて座り、起立している他の全員が注目している中、真下社長はシャンパン入りのグラスを手に厳かな声音を響かせる。

「お前達あっての俺だ。これからも存分に力を貸してくれ。ああ・・・それから。隣りにいる可愛い女は亮の大事な女だ。俺の気に入りだからな、そのつもりで扱えよ?」

・・・・・・紹介のされ方が、えぇと何ていうか。思わず隣りを見上げてしまうと、目が合って不敵そうに笑まれ。手元を掲げて社長がグラスを空ければ、みんなも続けて一斉に呷る。

「あとは好きに呑め」

社長の言葉が合図のように空気が緩んで、話し声も聴こえ出した。二次会的な集まりにも見えるけど、きっと亮ちゃんと同じ、グランド・グローバルの『裏側』の人達なんだろうと思った。

「明里」

呼ばれた方に視線を戻す。チャコールグレーの三つ揃いにパステルグリーンのネクタイをした社長が、機嫌良さそうに目を細めている。

「亮を口説き落とせた女はお前だけだ。遠慮なく傍にいてやれ」

まるで全部を見通されていたみたいで少し驚いて。はにかんで頷くと、柔らかい笑みが淡く降った。
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