臆病な背中で恋をした ~2
「瑠衣子が詫びたがっていた。亮の頼みだったとは言え、明里を傷付けたに違いないってな。一度会ってやってくれるか」
 
肩から滑り落ちるわたしの髪を一房掬い、指で弄ぶ仕草で。

「いえあの。・・・でもわたしもお礼が言いたい・・・です」

「礼?」

意外そうな表情を浮かべ視線を傾げられる。

「亮ちゃんの気持ちを後押ししてくれたのは・・・瑠衣子さんのおかげもあるって思うんです」

亮ちゃんはあれほど会社も辞めて自分達に拘わるなって。だけど何か瑠衣子さんの言葉がきっかけになって、わたしを受け止めてくれた。そんな気がしていた。

「だから今度はちゃんと会って、いろいろお話を訊いてみたいです」

素直に思ったままを言った。

「そうか。言っておく」

口許を緩めた社長はわたしを引き寄せて額にキスを落とすと、頭をひと撫でして立ち上がる。

「これからも俺と亮の為にいい子にしてろ」

見下ろしながら今度はあの妖艶な笑み。いつかも見せた、切っ先を突き付けるような眼差しが、真実の姿を垣間見せて。
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