しあわせ食堂の異世界ご飯2
 アリアにとって、開催されるお茶会はジェーロに来てから初めての公務と言ってもいいだろう。不手際のないように準備をしていたら、すぐに前日となった。
 明日のことを考えると、まだしあわせ食堂の営業中だというのに、どうしようもなくそわそわしてしまう。
「アリア、どうしたんだ?」
「あ、カミル! ごめん、私どこか変だった?」
 ちょうど厨房に注文を伝えに来たカミルが、アリアを見て首を傾げる。
「いや、いつもより表情が固い気がしたから」
「それは大変! 笑わないとっ!!」
 王女ともあろう者が、緊張して笑みを忘れるなんてあってはいけない。アリアは目元を緩めて笑ってみせると、カミルも「いつものアリアだ」と笑う。
(表情、気をつけないと!)
 隙を見せたら、大国の王女にぺろっと飲み込まれてしまいそうだ。
 相手がアリアよりも格下の貴族であればそう緊張もしないが、明日のお茶会に参加するのは全員が王女。
 それに、アリアより立場が上の者もいる。
 緊張するなと言う方が無理だ。
(エストレーラでは、穏やかなお茶会しかしたことがなかったから……)
 もっと公務で他国へ訪れて、経験を積んでおけばよかったと思うがもう遅い。
「そういや、アリアの用事があるのは明日だったな。シャルルに聞いたけど、朝一で出かけるんだろ?」
「うん。厨房を借りて、お土産のお菓子を作ったらすぐに行く予定だよ」
「あの美味しいやつはお土産だったのか」
 毎日試作していたお菓子は、シャルルだけではなくカミルとエマにも味見をしてもらっていた。なので、頷いて肯定する。
「なら、きっと相手は美味しさにめちゃくちゃ驚くだろうな!」
「だといいんだけど」
 政治的な策略があると、素直な感想ももらえないかもしれないと震えてしまう。せめて料理くらい、仕事の話を抜きに楽しんでもらいたい。
(まあ、そんなに甘い世界じゃないんだけどね)
 言葉のひとつひとつに気を使わなければいけないので、大変だ。
 なので、アリアはここ数日の準備や仕事でかなり疲れてしまっている。それに気づいたカミルが、アリアを気遣ってくれた。
「今日の片づけは俺がやっておくから、店を閉めたらすぐ休めよ」
「え? でも……」
「明日の朝も早いんだろ? アリアはいつも頑張ってるから、それくらいは甘えてくれよ。片付けなら、俺でも問題なくできるからさ」
 遠慮するなと言うカミルに、どうしようかと思いつつアリアは素直に頷く。せっかくの好意なので、ありがたく受けることにした。
「カミルも、困ったことがあったら力になるから言ってね」
「ああ。そのときは頼むよ」
「ん、任せて」
 従業員同士、互いにフォローできる関係はいいものだとアリアは思う。カミルやエマに何かあった際は、できる限り力になりたい。
「それじゃあ残りの注文も作っちゃうね」
「ああ、頼む」
 アリアは料理を再開し、カミルも接客をするためお客さんの下へ行った。

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