しあわせ食堂の異世界ご飯2
 アリアとしては助かるが、どうしてだろうか。
(他国だから、あまり揉めたくない……とかかな?)
 不思議そうに見ていると、ローズマリーがくすりと笑みを浮かべたまま、あっさりセレスティーナが引き下がった理由をアリアに教えてくれた。
「セレスティーナはね、アリア様のクレームブリュレがとーっても気に入ったようよ」
「え、わたくしのお菓子がですか?」
「だって、あんなに幸せそうに食べるセレスティーナはあまり見ないもの。だから、本当はアリア様が身を引いた後は、自分の派閥に置きたかったはずよ」
 それなのに、断られた挙句、恋のライバルというポジションになってしまった。
 セレスティーナとしてはとても不愉快だが、またクレームブリュレを食べたいという気持ちもあって……対立をするまで追い詰めることはしなかったのだろうとローズマリーは笑う。
「ちょっと、ローズマリー! 勝手なことを言わないでちょうだい!!」
「あら、本当でしょう? わたくしがあなたと何年の付き合いだと思っているの。バレバレだわ」
「~~~~っ!!」
 どうやら、ローズマリーの告げた言葉は本当だったようだ。セレスティーナは顔を背け、ふんと不機嫌さをあらわにする。
(クレームブリュレを気に入ってもらえたのは、すっごく嬉しいけど……)
 これじゃあ収集がつかないのではとアリアが心配していると、今度はローズマリーが違う提案をしてきた。
「なら、勝負をしてはどう?」
 突然のそれに、アリアは戸惑いを見せる。
「勝負ですか?」
「そうよ。だって、リベルト陛下は誰にも会われていないのだもの。つまり、わたくしたちの誰にも興味がないということでしょう?」
 ローズマリーの言葉を聞いて、アリアの胸がずきりと痛む。
 けれど、アリアの事情を知らないローズマリーは言葉を続ける。
「それなら、わたくしたちで誰が陛下に相応しいか決めてしまえばいいじゃないの。そうすれば、陛下のお手を煩わせることもありませんし」
「まあ、それは名案ね。そうしましょう! わたくしが陛下に相応しいと、勝負をすればわかりますもの」
 最初に提案に乗ったのは、セレスティーナだ。
 自信満々に胸を張り、すでに勝利を確信しているようにすら見える。
「それで納得するのなら、わたくしは構わない」
「セレスティーナ様、シンシア様も……!」
 リベルトと婚姻を結びたいふたりが肯定し、残りはアリアだけだ。
 というか、大国の王女であるローズマリーが提案し、これまた大国の王女であるセレスティーナが了承したのに、アリアがノーと言えるだろうか? 言えるわけがない。
 勝負に勝てるのならいいけれど、負けてしまっては大問題だ。
 だってもう、公にこそなっていないがリベルトはアリアを選んでいる。
 もし勝負で負けたアリアが妃に選ばれようものなら、エストレーラが責められることになってしまう。
(さすがに、王女の我儘で戦争を仕掛けられはしないだろうけど……)
 両国の仲が悪くなってしまうのは確実だろう。
 アリアが勝てば問題はないが、勝負に絶対はない。
「さあ、勝負内容を決めましょう」
「!」
 アリアが悩んでいる間に、セレスティーナが話を進めてしまった。
(私、まだ何も言ってないのに……っ!!)
 かといって、ここでアリアが待ったをかけるわけにもいかない。腹をくくり、絶対に負けないようにするしかないのだ。
 根性論になってしまうが、仕方がない。勝負方法が決まったら、すぐにでも対策を立てよう。
 チェス? マナー? ダンス? と、セレスティーナがどんどん勝負方法を提案していく。
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